アニメ「THE IDOLM@STER」 第20話

千早回でした。
泣いた。

細部までとても丁寧な仕上がりでしたし、1期劇伴のアレンジ違いが新たに多数登場しました。
とりあえずもう一回見てから寝ます。

色々と立て込んでて先週分の感想エントリを積んでますが、来週までに何とかしたいね。
(全話放送終了に伴い「Read more」記述を解除しています。)

二十話「束」

彩度の低い寒々しい空を舞う鳥、
事務所屋上で呆然とそれを見上げている千早、
そんな千早を陰から心配そうに見守る春香と響。
事務所内では電話対応に追われる小鳥さんと赤羽根P…

「アイドル如月千早の隠された真実。お姉ちゃん―姉の千早の下に駆け寄ろうとした弟は、車に撥ねられ、この世を去った。当事、千早は8歳。その場に居た人々の証言によれば、千早は弟を助けようともせず、ただ傍観していたと言う。何故彼女は、弟を見殺しにしたのだろうか。写真は弟の墓前で言い争う千早と母親の姿だ。ちなみに、千早の両親は、数ヶ月前に離婚している。事故死、家庭崩壊、離婚、彼女の周囲には不幸が積み重なっていく。そんな呪われた素顔をひた隠し、如月千早は今日も歌う。何も知らないファンの前で…」

問題の週刊誌の記事を控え室で読む真と雪歩、真美。竜宮小町も自分達の現場でそれを読んでいる。
事務所の建物の入口前には記者達が集まり、千早と春香を連れた赤羽根Pはカメラに囲まれる。

真「何だこれ、まるで千早が悪いみたいじゃないか!」
貴音「なんとも悪意に満ちた書き方です」
やよい「千早さんに弟さんが居たなんて…」
雪歩「春香ちゃん、聞いた事ある?」
春香「ううん…」

確かに酷い書き様だけど、実際、週刊誌のゴシップ記事ってこんな感じのこじ付けをするんだよね。その雰囲気が上手く出ていると感心してしまった。
「助けようともせず、ただ傍観していた」なんてのはまさに突っ込みどころなんだけど、こーゆー記事を読んでネットに転載する連中は、その突っ込みどころをまるっとカットして、単に「見殺しにした」と断言で書いてしまったりする。よくある事です。ネット上の記事見て「おいおいそんなわけねーだろ」と思って元記事を確認したら…と言うのを俺は何度も経験してる。
皆さんはどうですか? 転載記事を鵜呑みにして炎上に加担する側の人間? それとも、元記事を確認して必要に応じて突っ込みなり追加検証なりをして、真実を求める人間?
炎上に乗っかるのは週刊誌に限った話じゃないですよね。ゲハブログや一部の掲示板(の中の更に一部のアンチスレ)でも、悪意を持って書かれた否定的・攻撃的な記事だけでなく、肯定的な記事まで文意を歪めて改竄転載し、燃料にする。
最初に突っ込みどころ満載の記事を悪意を込めて書く人間は勿論悪いんですが、彼等が食っていけるのは、その様な態度を批判せずに、彼等が作り出す騒ぎに喜んで乗っかる大勢が居ればこそです。むしろ、あれを書いてる人間は「需要があるから」「自分の仕事が社会に求められているから」罪悪感なんて微塵も無しに、喜んで書いている。今だと「放射脳」と揶揄されている自称ネットジャーナリストの皆さんとかね。マスコミが「マスゴミ」である事を望んでいるのは誰なのかと問いたい。
私はそれらに乗っかる事を醜いと思う。自分の「人間としての価値」を貶めてまで、加虐欲を発揮し、「悪口で繋がる自由」を行使したいとは思わない。記名・匿名を問わず、私達はもっと美しいものや楽しいもので繋がる事ができるから、

千早「全て、事実です。弟が居た事も、私のせいで命を落とした事も」
社長「弟さんの事は、ご両親からも伺った事はあるが、君はたまたまその場に居ただけで、責任は無いと仰っていたがね」
千早「両親が何を言おうと関係ありません。私が…私が居なければ、弟が事故に遭う事も無かったんです」
社長「如月くん…」
P「千早…」
千早「私は歌わなければいけないんです。弟のためにも…」

ボーカルレッスンでも、弟のイメージがフラッシュバックして声を出せない千早。
それでも無理に声を出そうとして、先生や赤羽根Pを慌てさせる。

黒背景に白字ゴシック体「THE IDOLM@STER」だけのオープニングでした。
1期ラストの第13話と同じだけど、期待に満ちたあの時とは真逆の、鈍い幻痛を感じるような「オープニング無し」。
確かに、ここで「CHANGE!!!!」は無いけれども、

Aパート

やはり彩度の低い冷たい空とビル街、それを見下ろす社長室の黒井社長。

黒井「ははははっ、こんな奥の手があるとは思わなかっただろう。765プロ、いや、高木の悔しがる顔が目に浮かぶようだ」

高笑いの黒井社長、そこに荒々しくドアを開けて入室するJupiterの三人。

黒井「ん?」
冬馬「これがあんたのやり方ってわけかよ!」
黒井「何が言いたい」
冬馬「分かってんだろ。せこいマネはするなって言ってるんだ。汚い手使ってるのは、オッサンじゃねーか」
黒井「誰に口をきいている! 言ったはずだ。お前達は黙って指示に従っていればいい。三流プロが自滅していくのを横目で見ながらな」
冬馬「くっ…」

冬馬クンもうダメだな。
このタイミングでここまで行くなら、赤羽根Pと1対1のコミュ、もとい、展開も有り得るか。
Jupiter側のドタキャンとか。

シーンは変わって病院へ。廊下で春香が待っていて、診察室でPが医師から説明を受けている。
医師の診断では、メンタルが原因だろう、と。うん、それは知ってる。
そして、千早の回想。
やっぱ弟くんは「2」準拠でCV:ミンゴスなんですね。
劇判は「蒼い鳥」のオルゴールバージョン、

千早「弟は、たった一人の観客でした。あの時まで…」

夜の公園で、春香と赤羽根Pを前に訥々と語る千早。

千早「歌わなくちゃいけない。優(ゆう)のために、ずっと歌い続けなきゃ…そう思って…でも、もう歌ってあげられない。失格です。アイドルとしても、姉としても」
春香「千早ちゃん…」
P「千早、あんまり思い詰めるな。歌の仕事は暫く休もう。まずは、気持ちをしっかり休めて…」

急に立ち上がる千早。

千早「歌えなくなった以上、この仕事を続けていく気はありません」
P「千早…また、歌えるようになるかもしれないだろ。いや、きっとなるさ。だから…」
千早「色々と、お騒がせしました」

一礼して二人に背を向ける千早。

P「千早っ」
春香「千早ちゃん、待って!」
千早「もういいの」

ここまでずーっと、千早は二人に正面を向けていない。
感情の抜け落ちたような横顔しか見せて無くて、とても寒々しい。

場面は変わって、「生っすか!? サンデー」の収録、じゃなかった、生放送。

美希「今日は、千早さんが風邪でお休みだから、二人でお送りするの」
春香「イェィ! 頑張るぞー!」

普通なら代わりを入れるなり、椅子自体を片付けるなりするんだろうけど…空いた椅子と、ビデオが流れている間(スタジオのカメラが回ってない間)に春香が見せる表情が痛々しい。

律子「千早、出ませんか?」
P「ああ、家に行っても、ドアを開けようとしないし、食事だけはちゃんと摂る様に、色々置いてきたりしてるんだが…」
律子「ご両親のほうは?」
P「事情を説明しても、『何もできません』の一点張りだ。こんな時こそ、支えになってもらいたいんだけど…」
律子「このままだと、千早、来月の定例ライブも…」

もしこのアニマスから入っていたら「千早の両親」へ怒りも湧いたかもしれないが、ゲームではもう何度も繰り返された話なので、両親には全く期待しない。故に、失望も怒りも感じません。
自室のベッドの上で一人膝を抱えて俯いている千早。携帯電話には不在着信が溜まっている。

日は替わって、相変わらず週刊誌やスポーツ新聞で千早のゴシップが取り上げられている中、千早の住むマンションへ来た春香。

春香「千早ちゃん、居る? 春香だけど」
千早「…何か用?」
春香「うん、一緒に、ダンスのレッスンに行かないかなっと思って」
千早「…」
春香「ほら、身体を動かすと、気持ちいいし」
千早「行かない」

冷たい拒絶に一瞬ひるむも、努めて明るい声で食い下がる春香。

春香「…あ、そうだ。みんなから預かり物をして来たんだ。お茶とか、のど飴とか、色々。そんなに持てないよ~って言ったんだけど、みんな、これも、これもーって、私、サンタクロースみたいになっちゃって…」
千早「もう構わないで!」
春香「…え?」
千早「私はもう歌えない。みんなの気持ちに、応えられないもの」
春香「…千早ちゃん…。千早ちゃん、弟さんのために歌わなきゃって言ったよね? もっと、簡単じゃダメ? 歌が好きだから、自分が歌いたいから歌うんじゃダメなのかな?」
千早「……今更、そんな風には考えられないわ」
春香「千早ちゃん、自分を追い詰め過ぎなんじゃないかな? も、もっとこう、私は、歌いたいから歌うんだぁって思った方が、気持ちが楽だよ」
千早「やめて」
春香「それで、また一緒に歌えたら、私達も嬉しいし…天国の弟さんだって、きっとよろこ…」
千早「やめて! 春香に私の、優の何が分かるのよ! もう、お節介はやめて!」

強く拒絶され、とぼとぼと事務所への道を戻る春香。ビルに入る前に足を止め、涙を拭う。
あぁ、この敢えて涙を直接見せない後姿は上手い。貰い泣きを禁じえない。
と、その背中に声を掛ける女性が。

女性「あの…天海春香さん、ですよね?」
春香「はい」
女性「私、如月千早の、母です」
春香「……え?」

Bパート

千早はお母さん似なんだね。美人だけど、疲れた表情が痛々しい。
赤羽根Pが何度も電話して、ようやく引っ張り出した、と言うところだろうか?
ちなみに、エンドロールのキャスト表では「如月千種」になってました。17話で千早に電話を掛けて来たのは「如月千草」。別人なのか、単なる間違いか。

春香「あの、良かったら事務所で…」
千早の母親「いえ、いいんです」
春香「……」
千早の母親「……」
春香・千早の母親「「あ、あの…」」
千早の母親「すみません、あの、これを…千早に渡してやってください」
春香「これ…?」
千早の母親「亡くなった息子の、お絵かき帳です」
春香「千早ちゃんの、弟さんの?」

二人の事を語るお母さんに、春香は…

春香「これは、私が渡すより、お母さんから渡してあげてください。その方が、きっと…」
千早の母親「いえ、私は…顔を合わせても、また喧嘩になるだけです」
春香「あっ…で、でも、私が励まそうとしても…ダメだったんです。だから、これは、私よりきっとお母さんの方が…」
千早の母親「無理なんです」
春香「え?」
千早の母親「今更、信頼なんて、もう…私達親子は、ずっとそうでしたから…私に出来る事は、これぐらいしか…あの子の事、どうか、宜しくお願いします」

母親だって千早の事を想っていないわけではない。
でも、直接話せば傷付け合ってしまう。
それが分かっているから、他人に託すしかない。
赤羽根Pからの連絡には冷たい返事をしつつも、何日も悩んで搾り出した結論なのだろう。
千早のお母さんが立ち去り、その場にぽつんと取り残される春香。

P「それで、これを預けて帰っちゃったのか。…そうか…やっぱり、千早の事は俺達で…」
春香「…」
P「ん? 春香? 元気無いな、どうした?」
春香「あ、いえ……あの…私って、お節介ですか?」
P「え? どうしたんだ? 急に」
春香「千早ちゃんに、言われちゃって……『お節介は、やめて』って……私、いつも、頑張ろう、頑張ろうって、千早ちゃんだけじゃなくて、他のみんなにも…もしかしたら、それって余計なお世話で、迷惑だったのかなって…」

春香さんが降りて来てて軽く鳥肌が立ったところで、劇伴「いつもの空」のアレンジ違いが入る。
MA02収録のそれはオルゴールバージョンだったけど、今度はピアノとバイオリン。

P「そんな事は無い! いつも前向きなのが、春香のいいところじゃないか。誰かを励ますのに、遠慮なんかしてどうする」
春香「でも…」
P「あの時のキャラメル、嬉しかったよ」
春香「え?」
P「…もう一度、みんなの仲間として、やり直そうって、素直に思えた。春香には感謝してるんだ」
春香「プロデューサーさん…」

あぁ、ここで「P回」こと6話のエピソードか。
これまで、春香は765プロのみんなと絆を育んで来た。
赤羽根Pもまた、春香に励まされて歩んできた「みんな」の一人だったんだ。

P「なぁ、春香。俺は、千早は不器用だけど、ちゃんと人の気持ちの分かる子だと思う」
春香「はい」
P「なら、大丈夫。春香の気持ちは、ちゃんと届いてる。思った通り、体当たりでぶつかってみろ!」
春香「…はい!」

ヤバイ、早くも泣ける。
そうだ。千早のお母さんが失ったと言った「信頼」。それは、ここにあるんじゃないのか。
春香は、Pとの間にそれを築いたように、千早との間にもそれを築いていたはず。

シーンは変わり、局の控え室で優のお絵かき帳を眺めている春香。

春香「ふふっ、千早ちゃん、全部マイク持って笑ってる」
美希「それ、春香が描いたの?」
春香「あ、美希。違うよ。これ、千早ちゃんの弟さんので…」
美希「へ~、じゃあこれ、千早さん?」
春香「でも…」
美希「…こんな風に歌ってる千早さん、見た事無いね」
春香「美希も、そう思うの?」
美希「うん」

感性の鋭い美希も、単に小さな子供の絵だからと見過ごさず、その絵の主観を読み取っている。

劇判「少女たち」(MA02収録)のアレンジ違い、ギター(デュオ)バージョンが入ります。
尺ピッタリだけど、これは曲のスピードをシーンに合わせて録ってるの?
千早の横顔を、言葉を思い返して、何か思いついた様子の春香。

その頃、赤羽根Pとりっちゃんは局の休憩スペースの隅で打ち合わせ中。

P「いや、千早の出番は、ギリギリまで残しておきたいんだ」
律子「でも、ファンの前で失敗したら、それこそ自信を無くしちゃうんじゃ…」
P「分かってる。でも、苦手意識が固まらない内が、チャンスだと思うんだ。定例ライブなら、リスクもまだ…」
春香「プロデューサーさん!」
P「春香?」
春香「あの、相談したい事が…」

再び日数の経過した描写。
かなり長期間に渡って、事務所からは背景説明無しに「活動休止」と言う形を続けているようだ。
そんな中、再び千早の部屋を訪ねる春香。
千早は部屋の隅にうずくまり、部屋の中に響くのはキッチンの蛇口から落ちる水滴と、窓の外の車道の車の音だけ。
以前、春香が持って来た「事務所のみんなからの預かり物」の紙袋も玄関の隅に置きっ放し。
携帯電話は充電もせずにずっと放り出されていた様で、もう電源も入っていない。
そこに、春香が鳴らすドアチャイムの音が、

春香「千早ちゃん、私、春香です。…あのね。今日は、渡したいものあって、ここ、開けてもらえる?」
千早「…何も欲しく無い。もう私の事は放っておいて」
春香「ほっとかない! ほっとかないよ!」

春香の強い語気に思わず顔を上げる千早、

千早「だって私、また千早ちゃんとお仕事したいもん。ステージに立って、一緒に歌、歌いたいもん。お節介だって分かってるよ。でも、それでも! 私、千早ちゃんにアイドル続けてほしい!」

呆然とした表情で固まっている千早、「絶対見てね」と封筒をドアポストに入れて立ち去る春香の足音。
千早はゆっくりと立ち上がり、玄関へ。ドアの前に座り込み、春香の置いていったものを読み始める。

千早のマンションを後にする春香に合わせて劇伴にまっすぐさんktkr、ここで「まっすぐ」インストロメンタルとか酷い選曲である。
何をどうしたらこんな風に煽りを重ねる作りになるのか、涙が止まらないじゃないか。
流石はまっすぐさん、ここまで20話かけて力を溜めていたとは…

「千早ちゃんへ、突然だけど、新しい歌が出来ました。765プロのみんなで詩を作って、作曲家さんに曲を付けてもらったんです」

仕事やレッスンの合間、移動中等にそれぞれ詩を考えているメンバー達。それを持ち寄り、皆で事務所で纏めていく…

「今の私達の気持ちをどうしたら伝えられるかって考えて、そうだ、歌にしようって。みんな、喜んで賛成してくれました。初めての作詞だから、あんまり上手にできて無いかも知れません。でも、私達は、ひとりひとり、千早ちゃんへの想いを、正直に、この歌に込めました。みんなで作ったこの歌を、みんなで歌って、そして、千早ちゃんに笑顔になってもらえたら。あの、弟さんが描いた、絵の中の女の子みたいに」

同封されていた優のお絵かき帳に手を伸ばす千早。

「あとね。また、怒られちゃうかもしれないけど、弟さんは、歌を聞きたかっただけじゃなくて、千早ちゃんの、笑顔が見たかったんじゃないかな。歌が大好きで、歌ってると笑顔になっちゃう、そんなお姉ちゃんが、大好きだったんじゃないかな」

お絵かき帳を閉じて、そっと胸に抱く千早。夕暮れに輝き始める星達…

「それから、プロデューサーさんから追伸です。定例ライブ、出演予定に入れてある。ファンも、俺達も待ってるぞ、だって」

シーンは変わって、新木場Studio Coastでリハの真っ最中の竜宮小町。
どうやら定例ライブ当日の様で、ロビーでは物販の用意をしているし、他の面々も舞台裏で準備を進めている。
春香の視線の先には進行表が貼られてて、最後のMCパートの後に (M-19)「マリオネットの心」、(M-20)「SMOKY THRILL」、(M-21)「約束」、(M-22)「The world is all one!!」で終っている。そして、その最後から二番目の曲である「約束」には青いマーカーで丸く印が、

開場して客が入り、開演時間が近付く。
時計を気にする赤羽根P、

真「プロデューサー、千早は…」
P「いや、まだだ」
雪歩「やっぱり千早ちゃん…」
春香「ねぇ、みんな。いつもみたいに、円陣組もうよ。ね?」

皆が手を合わせ、春香が掛け声をかけようとしたところで、走って近付いてくる足音に気付いた真が、それをとめる。

千早「すみません、遅くなりました」

千早に駆け寄る一同。

P「千早、よく、来てくれたな」
千早「プロデューサー…」
P「どうだ、いけそうか?」
千早「分かりません。でも、私、せめて…」

千早が視線を上げると、そこには春香が、

千早「春香…」
春香「千早ちゃん」

手を差し伸べる春香、今にも泣きそうな顔をする千早。

あずさ「さあ、手を」
春香「行くよっ! 765プロー、ファイトーー!!」
一同「おー!!」

そして、開演。
ステージでは竜宮小町がパフォーマンス、沸く客席。
千早と春香は椅子に座って出番を待っている。

千早「…春香」
春香「うん?」
千早「…あの、私…あなたに、酷い事を…」
春香「うわぁあぁ~、そーゆーの、ナシナシ、ね?」
千早「…うん。……歌いたいって、思ったの。みんなが作ってくれた歌詞と、優の絵を見たとき」
春香「うん」
千早「笑えるのか、歌えるようになるのかも、分からないけど、もう一度、やってみようって思えたの」
春香「うん」
千早「ありがとう」
春香「…ううん」

聞き役に徹し、千早の想いの吐露にそっと寄り添うかのような春香。
そこに、Pが「そろそろだぞ」と呼びに来る。

P「大丈夫だ、リラックスして行こう」
千早「はい」

Pにも真正面から向き合って返事をする千早。
竜宮小町の三人がステージからはけて、下手の舞台袖で千早とすれ違う。

伊織「いってらっしゃい」
千早「ええ」

ステージの照明は紫から青へと変わり、一人でステージに立つ千早。それを見て客席がざわつく。
出演予定から外されていなかったとは言え、長い活動休止の最中だった事もあって、多くの客は千早の姿を見る事は諦めていたのだろう。
そして、前奏のピアノが鳴り始める。両方の舞台袖で心配そうに見守る一同。

歌い出そうとした千早、大きく息を吸い込んで瞳を開くが、またしてもフラッシュバックに襲われ、声が出なくなってしまう。

律子「千早…あの子、やっぱり。(スタッフに対し)すみません、一度中断を!」

今回はずっと千早を心配して気弱な態度だった律子。
この瞬間、赤羽根Pに断固反対しなかった事を心から悔いたに違いない。
だが、その脇を通り抜けて、下手舞台袖からステージへと駆け出す春香。

律子「は、春香、ちょっと!」
P「待ってくれ!」

律子を制し、続行を指示する赤羽根P。
歌い出す事の出来ない千早に、再びざわつき始める客席。
「やっぱり、もう…」
千早は歌う事を諦めて、目を伏せる。

と、そこに、

春香「♪ ねえ、今、見つめているよ、離れていても」

まるで「大丈夫だよ」と言うように、千早に向かい頷く春香。
もちろん春香だけじゃない。舞台袖で見守っていた全員が続々と、

真・美希「♪ もう涙を拭って笑って」
やよい・雪歩「♪ 一人じゃない、どんな時だって」
伊織・あずさ・亜美「♪ 夢見ることは生きること」
真美・響・貴音「♪ 悲しみを越える力」

千早「…みんな」

全員「♪ 歩こう、果て無い道、歌おう、空を越えて」

その時、千早の目には、彼女をずっと閉じ込めてきた不幸な事故の幻影ではなく、千早の歌う姿を見上げて絵を描く優の姿が、

全員「♪ 想いが届くように、約束しよう、前を向くこと、Thank you for smile」

そして、あの事故以来長く千早が見失っていたもう一人の自分、歌が好きで、笑顔で歌えていた幼い頃の自分の姿が、2期オープニングでずっと千早の後ろで歌っていた彼女が、千早の傍らに寄り添い、手を差し伸べる。
千早はその姿に「うん」と頷いて、差し出された手を取り…

千早「♪ 歩こう、果て無い道、歌おう、空を越えて、想いが届くように、約束しよう、前を向くこと、Thank you for smile」

千早の目には、客席から笑顔で手を振る幼い二人の姿が見えていた。
これはもう千早の全力の歌声そのものが、この上ない説得力を持つ演出だ。
残念ながら、言葉になんかしようがない。

Ending

そのまま2番でエンディングへ入ります。
いつもの様なショートバージョンではなく、これはフルバージョンと言う事かな。

約束

作詞:森由里子
作曲:NBGI (中川浩二, 小林啓樹)
編曲:NBGI (小林啓樹)

ねえ 今 見つめているよ 離れていても
もう 涙を拭って 笑って
一人じゃない どんな時だって
夢見ることは 生きること
悲しみを 越える力

歩こう 果て無い道
歌おう 空を越えて
想いが 届くように
約束しよう 前を向くこと
Thank you for smile

歩こう 果て無い道
歌おう 空を越えて
想いが 届くように
約束しよう 前を向くこと
Thank you for smile

ねえ 目を閉じれば 見える君の笑顔
聞こえてるよ 君のその声が
笑顔を見せて 輝いていてと
痛みをいつか 勇気へと
思い出を 愛に変えて

歩こう 戻れぬ道
歌おう 仲間と今
祈りを 響かすように
約束するよ 夢を叶える
Thank you for Love

作詞の森由里子さんはかれこれ20年以上アニソン・キャラソン・J-POPを多数書かれている…つまり、小さい頃から何かしらのアニメ作品でお世話になっているはずのベテラン作詞家さん。最近だとアッキーに「Sunrise!」を提供されてますね。個人的には「機動警察パトレイバー」OP「そのままの君でいて」とか好きです。リアルタイムでは見てないんだけど、
作曲はバンナムから、中川浩二サウンドディレクターはおなじみとして、小林啓樹さんはエースコンバットの人(4以降ミュージックディレクター)ですね。
アニメの中では1番のサビ前までを「千早以外の全員」、それ以降を千早が一人で歌ってますが、CDにはどのように収録されるかな? できれば複数バージョン欲しいところです。

今回も、エンディングの止め絵が絶妙のCパートとなっています。
特にラスト2枚の描写に、改めて、あぁ、千早は救われたんだな、と。

総括

魂の震える構成・演出でした。
全く小手先の技に頼らない、堂々たる直球の映像作り。
長い歳月を掛けて役者の中で培われたキャラクターの魂が込められた演技。
そして、時に物語を屋台骨の如く支え、時にキャラクターの生き様に寄り添う音楽。

先週から「例え赤羽根Pの存在感が薄くなっても、春香が千早を救い上げてくれると信じてる」ってな事を呟いてて、先日の池袋イベントでミンゴス宛のおてまみにまでその様な事を書いたりしたのだけど、実際、そうでした。春香が事務所の皆を巻き込んで、それをやってくれた。その描写辺りから涙腺ノーストップですよ。
春香がこんなにいい子なのだから、その反動で中村先生が上辺ではひねくれた態度をとるのも仕方ないよね。

Pの身になって己の無力さに歯噛みしたのはむしろSPの時で、今回はそーゆーストレスは感じませんでした。
赤羽根Pの動きは完全に水面下のもので、きっと千早は気付きもしなかっただろうけど、Pの視点からは春香が動いている様が見えていて、その結果が信じられた。目指すところは俺、じゃなかった、赤羽根Pも春香も一緒で、千早が過去を乗り越え、自分のために歌えるようになる事。「千早を俺に依存させる事」が目的ではないのだから、千早の心の壁を抉じ開ける最適解として、「親を引っ張り出す」→「春香のバックアップ」と移った判断はこれ以上無く妥当だったと思います。ハルチハは正義とかそーゆー事とは別に!
そこにあったのは、赤羽根Pと春香と千早の三人の間での信頼。ゲームでは描けないものだったし、これまでゲームで描かれたどの様な信頼よりもディテールの細かい、深い信頼だったと思います。

CDとニコマスから入った自分には、「Pの主観」はアイマスを構成する必須要素ではないと言う事もあり、また、ゲームにおいてはPの無力さを感じたり、Pを「前に出過ぎ」と感じる事も多かっただけに、赤羽根Pがちゃんと裏方に殉じて望む結果に貢献できた事、「いかにも『ゲームの主人公』的な出しゃばり」をしなかった事は、その状況における彼の望ましい有り様として、スッキリ腑に落ちて心地良かったです。これこそが俺の見たかったアイマスだ、と。

それと、何度か見返してみて思ったのは、よくこれが一話に収まったな、と。
(まぁ、導入部分を19話のラストに押し込んではいるので、収まってないと言えば収まってませんが)
尺を稼ぐのは幾らでも方法があるんですよね。情景を描く、関係性を描く、明るい話ならコミカルな会話を入れたり、萌えアニメなら需要に忠実に萌えを喚起するカットを挿入すればいい。だが、逆に尺を削るのは簡単な事ではない。下手をすれば重要な描写や台詞を削られて、その物語の中で描こうとしていた幾つかのテーマの一部が半端で歪な形になってしまったりもする。
春香と千早の会話、春香と千早の母親との会話など、「間」が必要なところでは全く不足無く「間」を取っていて、しかも、そんな会話のシーンが1話の中にたくさんあって、それでも全体では描き残し無く収まっている。恐ろしく研ぎ澄まされた脚本だと思いました。ここから削ぎ落とされたシーンや台詞を見てみたい。

そして何より、エピソードタイトルと同じ名を冠する楽曲「約束」のポジション。
作り方としては逆の手順でしょうが、DSで試みられた「楽曲をコアにした物語の構築」の一つの結実だと思います。
DSの三曲で思い知らされましたが、受け手が「楽曲が背負う物語」を「体験」している事によりもたらされる「ユーザーロイヤリティ」(マーケティング用語)は、楽曲と物語の両方に対して生じ、かつ、両者がシナジー的にそれを強め合います。
しかも、この「体験」は今回一話限りの関係ではなく、これまで20話・5ヶ月掛けて描かれた物語を共にした「体験」。これまでの全ての伏線が、全ての物語がこの楽曲に繋がっていると言う構成・関係性になっている。
素の状態でこの楽曲が本来持っていた「曲と詩の力」に対して、俺らの思い入れが指数関数的に掛け合わされてしまうわけです。これはずるい。これをされたらどうしようもない。特に、何度も見返して、キャラクターそれぞれの関係性の変化や伏線を気にしていた人ほど威力が大きくなる。理屈で理解していても、その影響力の外へ脱する事が出来なくなる。

こうなるとね。これまで以上に「客観的評価が出来なくなる」わけです。
これまでだって、過去のゲームやCD、同人作品等のコンテンツの体験に影響を受けた評価であり、アニマス単体を客観的に見る事なんてほぼ無理だったと思いますが、これまでのシリーズに対する「ユーザーロイヤリティ」を上回るものを、アニマス単体に植え付けられてしまった。やられたなぁ。
ぶっちゃけ、この先ゲームでアイマスが続くとしても、千早についてはもうこれ以上の物語は望まない。明らかにゲームで描けるものを超えているもの。


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