ガルパンが面白くて悔しい

1話、2話と見て、「あー、これは俺の趣味には合わねぇなぁ。面白くない。切ろう」と思った作品が、その後、週を追う毎にぐんぐん面白くなってしまうのは、自分の洞察力の低さを毎週突き付けられている様なものであり、正直、悔しいと言わざるを得ない。
そんなこんなで、今期屈指の良作と評すべきガルパン、「ガールズ&パンツァー」であります。

(以下、8話までのネタバレを含みます。)

先にぶっちゃけてしまうと、俺は「ストパン」こと「ストライクウィッチーズ」については軽くアンチと言っていいぐらい気に入りません。
秘すれば花なり、じゃありませんが、隠してナンボのものを二束三文でほっぽり出しやがって…と言うのもありますし、島田フミカネ氏のキャラクターデザインのバランスが(頭が大き過ぎて)嫌だと言うのもあります。それに、ストーリーも(アニメを何話か見て)イマイチ盛り上がらなかった。故に、自分の趣味には合わない、と。
しかし、その様な先入観で事前回避してしまう事は時に大きな損失であるとも知っているため、島田フミカネ氏がキャラクター原案を務める本作ガルパンも、キャラクターの頭の大きさには目を瞑り、まずは見てから判断する事にしたわけです。

個人的な主観判断軸では3話で「試合」が始まってからメキメキ面白くなりましたが、「試合」以外のシーンの作りの丁寧さは最初から安定しています。
ツッコミどころ満載のお馬鹿極まりない設定でありながら、アリエナイ部分をするっと無視してその周辺を懇切丁寧に作り込む事により、狙い澄まして「ギャップで笑わせる」事を意図した作りと言えるでしょう。
作り込む能力の無い人間がこの様なギャップ作りを単純に真似ても、「笑わせるギャップ」ではなく「嘲笑われるギャップ」になってしまいます。
単なるミリタリーオタクであれば、主人公達「県立大洗女子学園 戦車道科目選択者」一同が戦車の操縦を学ぶ過程を1話まるっとかけて描けるでしょうし、そうでなくても「主人公達が戦車の操縦を学んでいる様子」を1カット程度は挿入するのが自然な手順です。本来ならばその様な手順を踏む事によって、(背景や動機は兎も角として)主人公達が戦車を操縦するまでの流れが引かれて行くわけです。しかし、それさえもまるっと省き、「擬音の多い豪放磊落とした(頭が悪そうな、とも言う)女性自衛官」(CV:椎名へきる)の指導の下でいきなり搭乗、操縦できてしまう事にしたのも「笑わせるギャップ」だと思うのです。

脚本の質の高さは、この日TOKYO MXで放映された8話からも感じられます。
これまでの粗筋になりますが、戦車道「西住流」の家元である実家(と言うか母親)の「勝つ事を至上命題とする教え」に反発して家を出た主人公「西住みほ」(一言で言えば雪歩に似ている子だが、塹壕は掘らない)は、望まずに再び戦車道に巻き込まれる事になった大洗女子学園において、勝ち負けにこだわらない「楽しむ戦車道」を求めます。
そうして戦車道全国高校生大会に参加する事になった大洗女子学園戦車道チーム。5話、6話、7話をかけて1回戦で「サンダース大学付属高校」、2回戦で「アンツィオ高校」を破り、ついには準決勝の対「プラウダ高校」戦を迎えました。
「一度引いてからの反撃」のパターンを好むプラウダ高校に対し、大洗女子学園側の隊長を務める主人公は、「まずは慎重に相手の動きを見ながら」と方針を示しますが…

「フラッグ車を守りながら、ゆっくり前進して、まずは相手の動きを見ましょう」
「ゆっくりもいいが、ここは一気に攻めたらどうだろう?」
「うむ」
「妙案だ」
「先手必勝ぜよ」

あぁ、III号突撃砲を駆る「カバさんチーム」こと歴女チームの皆さんはあからさまに調子に乗ってしまっている。

「気持ちは分かりますが、リスクが…」
「大丈夫ですよ!
「私もそう思います」
「勢いは大事です」
「是非クイックアタックで!」

八九式に乗る「アヒルさんチーム」ことバレー部チームもノリノリでした。

「なんだか負ける気がしません。それに敵は私達の事を舐めてます!」
「ぎゃふんと言わせてやりましょうよ!」
「え、いいねぇ、ぎゃふん!」
「ぎゃふんだよね」
「ぎゃふーん!」

ぎゃふん言うてるのはお前らや。
M3搭乗の1年生「ウサギさんチーム」まで調子に乗りまくっています。
どう見ても慢心、もう視聴者にしてみれば嫌な予感しかしないわけで…

しかし、「楽しむ戦車道」を掲げる主人公は皆の気持ちを尊重し、自分の提案を下げて、その場の勢いに任せた行軍を決断します。

「孫子も言ってるしな、兵は拙速なるを聞くも、未だ巧の久しきを睹ず」

LT38の生徒会「カメさんチーム」より、ムカつく生徒会長殿のお言葉で試合前のミーティングを纏めます。
しかし、この会長の台詞は実は伏線。イケイケで深追いをした結果、プラウダ高校の「一度引いてからの反撃」に嵌り、大洗女子学園チームは見事に包囲されてしまいます。
まさに孫子の兵法、行軍篇「遠くして戦いを挑むは、人の進まんことを欲するなり」の状況でしたが、九変篇「囲地には則ち謀れ」に反してまんまと包囲網の中へ誘い込まれてしまったわけです。
大洗女子学園の会長殿は言葉としての孫子を知っていても、それを実践したのはプラウダ高校の方だった、と。

「なんで逃げてるの?」
「こっちが全車両で追いかけているからじゃないですか」
「そうだよね~、何故か追うと逃げるよね、男って」

包囲される少し前のこのノンキな会話も、「主人公側が敵の策にはまって『追わされている』」状況を直接的な説明台詞を用いず婉曲的に視聴者側に伝えているのですが、「シリアスな状況」を「それに気付いていないが故の緊張感の抜け切った台詞」で伝えるギャップがおかしく、上手いです。

そして8話の最後、「楽しむ戦車道」を選んだ事で決定的な窮地に陥った主人公は、勝ち目の無くなった状況で無理をして事故でも起きては…とサレンダーを主張しますが、そこで初めて、これまで伏線をチラつかせつつも伏せられて来た「それでも、我々は勝たなければならない」と言う状況設定が突き付けられます。
主人公は「楽しむ戦車道」を貫くのか、それを捨てて「勝つための戦車道」を選ぶのか、そもそも、この窮地から脱する手はあるのか…と言う物語の作りとして否が応にも盛り上がる流れ。この様な、物語を大事に大事に積み上げていく描き方は美しいですね。

この試合を突破できれば、決勝戦は「西住流戦車道の体現者」を自負する「主人公の姉」の指揮するチームとの対決です。
それは、実家を出ながら戦車道に舞い戻った事に腹を立て「勘当を言い渡しに行く」と言っている「主人公の母親」との対決でもある。
単純な「主人公の『楽しむ戦車道』 vs 姉・母の『西住流』」の構図とはせず、直接対決の前に、それに相応しい位置に達するための試練を置く、熱い展開です。

ちなみにこの西住流戦車道、家元曰く「撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れ無し、鉄の掟、鋼の心」だそうで、言うまでもなく「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」を捩り、色々と足してます。
家元は厳粛厳格に話しておられるのに、これを聞く度に噴く。悔しい。

余談

…等と言う脚本作り、ドラマ作りの巧みさだけで賞賛するには充分なのですが、この8話では他にも楽しい仕掛けが。
相手チーム「プラウダ高校」のチームリーダー「カチューシャ」(CV:金元寿子)と副官「ノンナ」(CV:上坂すみれ)が歌うロシア民謡「カチューシャ」です。

2011年デビューの上坂すみれさんはパパ聞きの「小鳥遊空」役や「中二病でも恋がしたい!」の「凸守早苗」役で存じておりますし、上智大学外国語学部ロシア語専攻のロシアオタクかつミリタリーオタクである事も聞き及んでおりましたが、私の声優オタとしてのカバー範囲は広くも深くも無く、「ノンナ」の声を聞いて誰が声を当てているか分かるほどの耳馴染みはありませんでした。
ですが、「ノンナ」がロシア民謡「カチューシャ」をロシア語で歌いだしたのを聞いて、あぁ、なるほど、これはつまり「すみぺ」か、ロシア語で歌わせるためのキャスティングか、と膝を打ったわけです。
くっそー、面白いネタを仕込みやがってw

と言うわけで、ガルパンは“戦車への造詣が無く、頭の大きいキャラデザが嫌いな”私にも楽しめる、今期一押しの作品のひとつです。


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