Pヘッドはどんな自由な発想で作ってもいいんだ

(と言っても、「自分の作りたいイメージ」を飛び越える事は無いので、私なんかの場合は、結果としてどれもこれも似たようなものになるんですががが。)

近年「大学の新勧でPヘッドやった」等のTweetを見かける事も増え、「日本橋ストリートフェスタ」の様な屋外イベントでPヘッド集団が目撃されたり、アイマスとの紐付けが強くない場でも見かける程度にポピュラーになった事が、何だか不思議に感じています。
SSA二日目の前説アニメにおいて「Pヘッド+映画泥棒(カメラヘッド)」の融合形態が公式から登場した時には、勢い勇んで「これ作るぞ」と宣言しておられた御仁をTwitter上で多数見かけましたし(同じ方かは存じませんが、実際に作られた事例もあるようです)、Pヘッドも遂にキャズムを超えたかな、と。(←言い過ぎ、大袈裟)

Pヘッドはもともとは同人界隈やニコマス界隈で用いられた「記号化」でしたが、「ぷちます!」によって公式にも採用された経緯*a1もあり、アイマスP層の広がりと共に、公式採用以前の文脈を知らなかったり*a2、忘れてしまっている*a3人達も増えてきたようです。
なので、ここで一度「おさらい」と言うか、再確認しておきたいな、と。

  • *a1 : 「ぷちます!」は明音氏が個人サイトに掲載していた二次創作の4コマ漫画が、(作者の許可を得た形で)ニコニコ動画に転載されて人気を博し、「バンダイナムコゲームス公認のスピンアウト作品」としてアスキー・メディアワークスのコミック誌にて連載が始まったものです。
  • *a2 : 後述しますが、アニマスの影響力が非常に大きかった事から、アニマス以降に入ったPの中には、赤羽根Pの以外のP像に違和感があると言う方が結構おられるようです。
  • *a3 : 2014年に、とあるオーソリティーが「ぷちます!」Pとは前後が逆になったPヘッダーの画像を見かけて、「逆ではないか?」と言う意味合いのTweetをしていました。古参の方でも「ぷちます!」P像によって認識を上書きされてしまい、それが「様々なP像のバリエーションの中の一つ」であった事を忘れてしまっているのだな、と驚きました。

そもそも、P像自体が一切の制約を受けないと言うお話

要約:Pヘッド以前に、P像(Pのイメージ)自体が自由なものです。

アケマス等、初期のアイマスが「アイドル以外の全ての人間」を単なるシルエットで表現していた*b1事から、初期のアイマスにおいてP像は「非定義」、定義されていないものでありました。
そのため、同人界隈ではそれぞれの作者の自由なイメージでP像が構築されました。*b2

  • *b1 : 後に、この「シルエットで表現」の最初の例外として音無小鳥が設定されます。
  • *b2 : 同人を含め、User Generated Content(あるいは、User Created Content)の界隈においては、定義を詰め過ぎずにユーザひとりひとりが自由に想像・設定する余地が残っている事が「盛り上がり」に必要不可欠だと考えられています。

その多くは、(a.)アドベンチャーゲームの主人公の様に*c1「比較的多くの読者が自己投影し易い、特徴の薄い曖昧な人物」でした。中肉中背、背は高くも低くもなく、太っても痩せてもおらず、前髪が少し長くて顔が隠れているようなイメージ、とでも言いましょうか。*c2
もっと踏み込んで(b.)「自分のイメージするP像」のディテールを詰めていった作家さんもいますし、(c.)担当アイドルとの対比の印象等を意識して、「この子とこんなPの組み合わせならどんな人間関係になるだろうか」と言う視点でP像を構築し、Pと担当アイドルの関係性を軸に物語世界を構築する作家さんもいます。

Pを「アイドルの観測者」とした場合や、アイドルを描くための相手役、助演俳優的な位置付けで考えた場合は (a) のパターンに、作者自身のプロデュース方針や、作者の担当アイドルの関係性が作品の前面に出てくる場合は (b) のパターンに、自分自身とは同一視しない架空のP像が担当アイドルに寄り添う物語を思い描いている場合には (c) のパターンになる場合が多いように感じます。
いずれにしろ、この時点で「アニマスにおける赤羽根Pのような」具体的なP像を公式が示していなかったからこそ、P像に様々なアプローチが生じたのだと思います。

  • *c1 : 「昔のエロゲの主人公の様に」でもいいかな。
  • *c2 : 自分がイメージしたのは日本ファルコム「ブランディッシュ」主人公の顔グラフィックとか、

アニマス以前にアイマスに触れた人の多くは、ゲームをプレイしたか否かに関わらず、当時はこの様に「P像とは十人十色のものである」と理解していたように思います。

同人よりも後のタイミングで発生したニコマス*d1も同様で、小心なP、愚かなP、変態なP、女性恐怖症なP、セクハラ三昧の屑人間なPなど、(b) や (c) の観点で様々なP像が描写されました。
そもそも、ゲーム内のPの言動自体が支離滅裂で一貫性がなく、キチガイじみた側面を持つため、その一部分を抜き出して膨らませただけで、幾つもの全く異なる人物像が生まれます。
やがてニコマスにおいては、既存の映像・音声素材を組み合わせる「MAD動画」の作法の延長線上で、最強のサイヤ人やティーズファクトリー代表取締役、仮面ライダー、左腕にサイコガンを持つ不死身の男など、様々なキャラクターがP職を務める事になります。

  • *d1 : アケマス初期にはニコニコ動画はまだ存在していません。「ニコマス」と呼ばれる二次創作ジャンルに火が付いたのはXbox360版のリリース後でした。(ただし、ニコニコ動画のサービス開始から「ニコマス」ブームの間にも、僅かながら「アーケード版のプレイ動画」は存在していました。)

実は、この時点で既に「所属文化によるギャップ」が存在し、アケマス世代であっても、同人文化やニコマス文化との接点が少なかった人の場合、自分の中のP像を絶対視するあまり、「多数のPの間で多様なP像が共有されている」事を受け入れられない場合があります。
ただ、公式の手によりゲーム内で描かれているPの断片的な描写が、P像としてあまり肯定的に語られない事だけは、当時のPの間で共通しているのではないかと思います。

「Anno アニマス」あるいは「After アニマス」

西欧の歴史がキリスト紀元前(BC, Before Christ)とキリスト紀元(AD, Anno Domini)で記述されるように、アイマスの歴史はアニマス紀元前(Before アニマス)とアニマス紀元(Anno アニマス)で記述する必要がある…かも知れません。
アニマスの降誕は、アイマスを取り巻く環境をドラスティックに変容させました。

アニマス紀元前のP(以降「BA世代」と表記)にとって、赤羽根Pは「この世に数多いるP達の中で、特に『公式によって描かれた数人のP』の中の一人」に過ぎませんが、アニマス紀元後にこの世界に降り立った人(以降「AA世代」と表記)の中には、自覚の有無に関わらず、赤羽根Pが「唯一のP」*e1となっている場合があります。

  • *e1 : この様に書くと、アニマスおよび「2」内の律ちゃんPのポジションが微妙な件

こうして、第二の大きなギャップが我々の前に立ち塞がります。
ちょっと探せば、ニコマスのストーリー物や同人誌に対する反応で、極自然に「赤羽根P以外のPは受け入れられない」と言う感想を呟いている人を見つける事ができます。
アニマスは強い影響力を持って具体的なPを描いた事によって、数多の個性を持つ群体であったP像を、ひとりのキャラクターに集約してしまったわけです。*f1
BA世代に属していても、ゲームや同人、ニコマスから離れて久しいPにおいては、ほとんど無自覚に「赤羽根Pを標準的P像として想定してしまう」傾向が見られています。

  • *f1 : アニマス以前に存在した「公式の手による作品」の描くP像との決定的な違いは、テレビアニメと言う媒体の影響力の大きさでしょう。

後に「ぷちます!」Webアニメ化によって、「ギャグものに限ればPヘッドでも良い」と態度を軟化させる人々も現われましたが、どちらにしろ、公式がアニメーションとして提示したP以外は受け付けないと言う姿勢の人達が大量に生まれてしまった事には変わりありません。
これはもう世代ギャップとしか言いようがない。

また、この頃から、かなりハッキリと「Pヘッドは嫌い」と表明する人も現れました。
このように表明する人達は必ずしもAA世代に限らないのですが、BAの頃には全てのP像が並び立っていた故に気に入らないP像を苦も無くスルー(見ない振り)できていたのが、AA以降、「広く認知されている世のP像」が「赤羽根P」か「間島P(「ぷちます!」Pヘッド)」かの2極に偏ってしまったために、スルーし難くなってしまったのではないか、と推測します。

そんなこんなで…

現状、Pヘッドを取り巻く環境は、なかなか複雑なものがあります。
目立つご意見だけ拾い上げても、

  • 非公式の存在なので望ましくない
  • 公式の存在なので問題ない
  • 公式の存在だが「ぷちます!」以外の場では望ましくない
  • モゲマスPはPヘッドな気がする
  • 公式とか非公式とかどうでもいいし、問題ない
  • 公式とか非公式とか関係なく、嫌いなものは嫌い
  • 皆がスーツ姿では芸がない。もっと色々なバリエーションでアピールすべき
  • スーツじゃないやつって何なの? 意味が分からない。スーツ以外認めない
  • 野良コスやめてほしい*g1

etc,etc,etc…

まぁ、ぶっちゃけた話、真逆の御意見が存在しているので、皆の意見を汲んで皆を満足させる結論に着地するのは無理って事です。

なので、自分にとって都合の良い御意見を採用する事になります。
私は「User Generated Content」としてのアイマス界隈を敬愛しているので、同人やニコマスで育まれた『雑多でカオス極まる様々なP像』を支持していますが、雑多でカオスなP像も、スタンダードで凡庸で特徴の乏しい「単なるスーツのPヘッド」が居ればこそ際立つと思うので、自分自身は多くの場合に「単なるスーツのPヘッド」を選択し続ける*g2と思います。

  • *g1 : 公の場での仮装は「表現の自由」の範疇であり、公序良俗に反しない限り制限できる根拠はないです。コスプレイベントのローカルルールを、イベント外で社会規範や法律よりも優先してよい道理はありません。
  • *g2 : 例外アリ(「P字の穴がスピーカーになっていてアイマス曲が流れるPヘッド」「注連縄飾りを装ったPヘッド」「開店祝いのミニ花輪を装ったPヘッド」等々)

Pヘッド自体は極めてハードルが低いと言う話

要約:だから、軽い気持ちで始めればいいのよ。だけど、嵌ると案外深いのよ。

実のところ、Pヘッド自体は、それをコスプレと呼ぶ事も憚られるぐらい容易なものです。
(それ故に「コスプレは高いハードルを越えて辿り着くべき崇高な物なのに、お手軽にコスプレもどきをしやがって、コスプレに対する冒涜だ」とヘイトを募らせる人も居るぐらいです。)

例えば、これは実際にTwitter等でちょっと検索をかければ見つかると思いますが、「大学のサークル室などで作成し、そのまま大学構内で新入生勧誘などに利用する」と言うシチュエーションであれば、「屋外で塗装が可能」、「大きさや可搬性を気にしなくてよい(折り畳み式・分解式にしなくてよい)」、「耐水性・耐久性も意識しなくてよい」等々、仕様面での条件が緩和されて、難易度は極めて低くなります。

でも、そこはそれ、Pヘッダーがそれぞれに自分だけの「こだわり」を持つ事で、あんなに簡単だったPヘッドが見る見る内にちょっとした苦行に!

  • 例えば、ブラックホールPの様に「仮面ライダー鎧武」の駆紋戒斗なPヘッドを演ろうとすれば、普通にコスプレをするのと同様に衣装を用意する必要があり、ハードルが上がります。
  • 例えば、北海道在住の紫もやしPは、幕張でのライブに空路で向かうにあたり、飛行機の預入荷物(受託手荷物)とするために完全分解式のPヘッドを作成しました。全てのパネルを面ファスナーで固定する事は、パネル自体の自重を考えるとなかなか難しい事だったりします。

私のPヘッドは初期の頃はかなり大きかったため、入場前のコインロッカー確保に苦労しましたが、現在ではアリーナ席の椅子の下に収まるヘッド、分解して手荷物に収まるヘッドも珍しくありません。
夏の猛暑の最中でのPヘッドは体力を奪いますし、海風吹き荒ぶ幕張や横浜では強度や固定方法が問題になります。
今なお様々な課題があり、また、人によって異なるテーマと拘りがあるのがPヘッドです。

フォルムに拘るPヘッダーがいます。
表面の質感や繋ぎの目の処理に拘るPヘッダーがいます。
アイスリットを目立たなくする事に拘るPヘッダーがいます。
ポーズや小道具に拘るPヘッダーがいます。

そんな細かなところにどれだけ拘っても、Pヘッダーをいちいち見分けてくれる人は決して多くはありません。
しかし、稀に、極稀に、凄く細かなところまで見て、批評してくれる人も居たりして、なんだかんだでそーゆーのが嬉しかったりするのです。


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