新春ステマ祭り雑感

周回遅れと言うか、2,3日前に書いて、ここには挙げない(しばらく寝かしてから他へ挙げる)つもりだった文章なんだけど、今朝方ちょっとイラッとしたので挙げてしまう事にしました。
以下、本題。

まず、参加してないお祭りを訳知り顔で解説する気は無いので、詳しい経緯は以下を参考にして頂きたい。

「ステルスマーケティング」とは?

本来の意味は「消費者に宣伝と気づかれないように宣伝行為をする事」です。
具体例として、「中立的な一消費者」を標榜するブロガー等に報酬を渡して(報酬の事は伏せたまま)宣伝をして貰う、等が挙げられます。

当該製品を開発・製造・販売・宣伝する側に属していたり、そこから利益供与を受けている事を伏せての掲示板への書き込み、製品レビューの書き込み、Twitter等でのコメントも全て当て嵌まります。
更に、競合他社に対するネガティブブランディングを意図したものも同様でしょう。

何が悪いのか、と言うのは明らかで、「嘘をつく事」が悪いです。
米国では既に明確に違法行為とされており、最近では日本でも消費者庁から指導が出るようです。
「宣伝行為ではないフリ」をした宣伝行為で消費者を騙してはならん、と言う極めて単純な「消費・契約社会における社会倫理」の話です。

この国には、単純に「嘘をついてはならない」と言う法律はありません。
法律に定められているのは、開示や届出や説明が法律で義務付けられている事柄について虚偽の内容を示してはならない、と言うところまでです。
「××について嘘ついたらペナルティ」「△△について嘘ついたらペナルティ」と各ジャンルの法律でそれぞれに列挙されてるだけで、ただ「嘘」を禁じる法律は存在しません。
しかし、社会倫理・社会通念上「嘘をつく事」は許されていないので、バレれば刑事裁判ではなく民事裁判になります。
法律に明記されてないからどんな嘘でも言いたい放題、と言うほど世の中は甘くないのです。
嘘で誰かに有形無形の損害を負わせれば、様々なカタチで嘘の責任を問われます。
嘘そのものよりも、嘘が招く「結果」が問題になります。

「ステマ祭り」ってどうなん?

祭りそのものについては「ネットの自浄・自衛作用」として概ね肯定したいです。
特に、PV稼ぐためにセンセーショナルに味付けする事に執着し、故意に悪意を煽り、デマを広げた者は、(行為自体は旧来のマスメディアと大差無いとは言え)法的にも社会的にも断罪されるべきだと思うので、祭り参加者の正義感には敬意を払います。例え大多数が祭りに浮かれているだけであったとしても、(大事なのはその結果です)

今回、たまたま「故意に悪意を煽り、デマを広げる者」「コミニティにフリーライドしてアフィリエイト収益を得る者」「中立の一消費者のフリをした宣伝活動で報酬を得る者(=ステルスマーケッター)」と言う属性が重複して火勢が増したようですが、本来であればこれらは個別に議論されるべき問題です。
しかし、個別に議論していては届かない領域、この火勢でなければ焼けない罪があるのでしょうから、一緒くたになってしまっている事も止むを得ないとも思います。(現在の火勢ですら、そこにある問題を焼き尽くせるかどうか分からない)
自分は冷静で客観的だ、と自負している方は、きちんと分けて考えてみて欲しいと思います。

  • 大勢の人間を動かせるのはいつも、冷静な真実ではなく、誇張された極端な意見です。そして、大勢の人間が動かなければ物事を変える事は出来無い。
  • この件について深く考える気の無い傍観者が、祭りの参加者に対し上から目線で物を言うのはなんか違うんじゃないかなって思う。踊る阿呆も見る阿呆も同じ阿呆だし、この社会の一員として「消費者問題」と言う公益に対する議論にはリスペクトを持って欲しい。
  • 全ての人間が、全ての社会問題に興味・関心を持って議論に参加するのは無理だ。だから、関心を持たない者がそれを理由に責められるべきではない。しかし、関心を持たない者が持つ者をdisるのは恥ずべき事です。自分が興味の無い物について熱くなってるヤツは見下していい、と言うのは完全にDQNの発想。

この祭りを「私刑」と否定する方もいらっしゃいますが、社会的制裁とはそもそも私刑ですよね。
自ら罰を甘受すれば私刑は免れます。やる事やったのだから、どの様な形であれ潔く罰を受けるべきではないでしょうか。
やる事やっといて「訴えられたら謝ればいい、訴えられなければ知らん振り」ってのはどうなの?
俺はこの「社会的制裁」が道理から外れたものだとは思いません。

ですが、祭りの舞台となった板の住人達にも「煽りに乗っかりたがる人達」「反論を封じようとする人達」が居るのは事実であり、悪質なステルスマーケッターのせいばかりにしないで、少しは自省して頂きたいかな。

  • その一方、「まとめサイト全般」「アフィリエイトサイト全般」がまるっと否定されてしまうのは色々と損失なので、上手く癌細胞だけが除去される事を望みます。

翻って、ゲハ板の外に住まう我々も「『まとめ』は何らかの視点で取捨選択されている事」を意識しなければなりません。
特にTwitter民は、ソース確認を怠ってデマを拡散させる事が非常に多く、ネットで最も情弱な、悪人達にいい様に利用されるポジションとなっていると思います。
ステルスマーケッターがここまで蔓延った一因として、前述の「板の住人達の一部」以上に罪深く、自省すべきなのでしょう。
「過去一度も不正確な情報をRTした事は無い」と言う人間以外は当事者の一人であり、他人事の様な顔をしてはいけないと思います。

ネガ意見に対して

まず、「騙される方が悪い」等と自分の頭で何も考えてないかのようなアホな事を言う人間も居ますが、「騙す事の悪さ」と「騙される事の悪さ」は全く異なる次元・評価軸のものであり、並べて比較して「どちらの方が」と言う様なものではありません。(騙すのは「倫理的に悪い」 / 騙されるのは「頭が悪い」)
コンビニのおでんの食べ比べで盛り上がっている場に「MS-06Jとどっちがいい?」とザクIIを放り込むようなものであり、その愚かさが理解出来ないなら、せめて義務教育終了レベルの分別がつくまで黙っていた方がよろしいかと。

更に「デマ拡散」と言う観点で言えば、騙されて拡散させた者は、知らなかったとは言え「騙す側」に加担した共犯者です。
「騙されたから自分は悪くない」等と思わずに、ソース確認を怠ると言う不注意から自身も加害者側に協力した事を自省すべきでしょう。

最後に、「この騒動の影響で宣伝活動が萎縮するのではないか?」等と言う自作自演的な懸念を表明している者も居ますが、それこそ正真正銘の「ステルスマーケティング」です。この際だから、「自分はステルスマーケッターであり、萎縮しています」と正直に表明すればいいのに。
出自から言えば、旧来のマスメディアが伝統的に行ってきた「ステルスマーケティング的な手法」には特に明確な名前はついておらず、今現在ステルスマーケティングと呼ばれているものは、ネット時代になってからバイラルマーケティングの派生として生まれた「行き過ぎたマーケティング」です。
「騙す」と言う一線を越える事無く、節度あるマーケティングをしている者であれば、この騒動の最中にも何らやましいところ無く自分達の信じる宣伝活動を継続しているはずであり、萎縮など在り得ません。
萎縮するとすれば「行き過ぎたマーケティング」を行う者達であり、それはむしろ大歓迎。業界の健全化のために大いに萎縮して、さっさと消えて無くなって頂きたいところです。

おまけ:バイラルマーケティングとステルスマーケティングの関係

バイラルとは「感染的な」と言う意味合いであり、噂・口コミにより認知が広がるような仕組みを仕掛ける事を指します。
00年代初頭から使われ始めた言葉で、当初は、街中で予告無く奇妙なパフォーマンスをしたり、テレビCMでは流せないような過激な映像をWebに上げる、商品に関連するFlashゲームを公開する等、「それを見た人が知人友人に伝えたくなるような企画」を仕掛けるものでしたが…

  • 当時はWeb広告の予算が他のメディアとは比較にならないほど小さく、旧来のマスメディアと同じ様な宣伝手法は取りたくても取れなかった、と言う背景があります。

その後、旧来のマスメディアを牛耳っていた「大手の広告屋」達が本格的に参入し始めたためでしょうか。
いつの頃からか、バイラルマーケティングと称しながら「芸能人やブロガーに言及してもらう」と言う方向に軸足を置くマーケッターが現れました。これが「ステルスマーケティング」の始まりです。

しかし、これってテレビ等の旧来のマスメディアでは昔も今も普通にやられている事なんですね。
非マスメディアの世界において、マスメディアでは出来ない(低予算で)新しくて面白い事をして、消費者との新たな関係性・繋がりを築こうとしていたムーブメントなのに、そこからの劣化派生で「旧来のマスメディアのやり方」へと先祖帰りする連中を生んでしまった。
「芸能人やブロガーに言及してもらう」だけではありません。「偽者の関係者を仕立てて匿名インタヴューを取る」「偽者の一般市民を仕立てて街頭インタヴューを捏造する」なんて言うテレビ業界の手法も、Web向けにアレンジされて、匿名掲示板やmixi等のSNS、Twitter上でステマとして(何年も前から)疑惑になっています。

どうか誤解しないで頂きたいのですが、バイラル=ステマではありません。
受けを狙い、人々を楽しませる事で商品をアピールする「本来のバイラルマーケティング」を行う人達は今でもたくさんいる。
むしろ、ステルスマーケティングの多くはバイラルマーケティングの一種ですらないと思います。
彼らステルスマーケッターが仕掛けるのは、テレビ等のマスメディアと同じ「芸能人や有名ブロガーのブログ → 芸能人や有名ブロガーのファン」と言う一元伝播の構図であって、情報を受け取った人々の間で「バイラル(感染的)に」伝播していくものではない。偽の口コミ、仕立てられた虚偽の影響力だから、仕立てた発信者の先ではほとんど伝播しない。
Web広告の分野に潤沢な予算が流れ込み、マスメディア広告並みに金を使えるようになったので、新しい事・面白い事・工夫する事をやめて昔のやり方に戻した…口コミ戦略を見失った者達なのです。

最後に

私自身はWeb業界の端っこで飯を食っている者です。
ここ最近3年程の私のミッションでは、直接的には広告屋さんと一緒にお仕事はしてはいませんが、間接的に協働したり、お仕事を頂いたりする可能性のある位置で働いています。その様な「自分の立ち位置」・「言及対象者との関係性」を明確にした上で申し上げたい。

広告屋よ。
口コミ戦略でないものを口コミ戦略と説明して顧客を騙すな。
バイラルマーケティングでないものをバイラルマーケティングと説明して顧客を騙すな。
商業広告であるものを商業広告でないような体裁に偽って消費者を騙すな。
この社会の一員として、「社会に対し不誠実な手法」で顧客を唆(そそのか)すな。

Webと言う新天地を旧世界の闇で染める外道マーケッターは、ステマと共に滅びよ。

…まぁ、今回の「祭り」程度じゃ滅びないでしょうけどね。
私は私の仕事の中で、その様な不誠実に抵抗していくしか無いし、
ネット上での「聖戦」も、ずっと続けていくべきものだと思います。
継続できれば、社会の秩序を守る市民運動としての正当性も備わるはずです。


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